京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)

京都市ソーシャルビジネス実行委員会を経て、2015年4月に発足したソーシャルイノベーションを軸とした京都市の産業支援事業です。

同年立ち上げ期にはフルタイムの嘱託職員として、2018年からは月4日勤務しています。主に、外の事業者さんとの連携、コーディネートや、プロジェクトマネジメントを担当しています。

SILKの支援事業では、支援のメニューを固定化していません。
ソーシャルイノベーションがクラスター化していくことを目的としています。

SILKでの活動についてのヒアリングを受けた際にまとめたものを以下に転載します。


1.SILKコーディネーター就任時のどのような変化がありましたか?

SILK創設時にメンバーとなり、同時にまたプロジェクトの伴走支援者を行う個人事務所を設立しました。前職では社外の方々とプロジェクト形成や事業化を行うとともに本業への波及効果を狙うCSR室を担当していたことから、コーディネーター就任時はそういった職業が生まれたということにとても嬉しく思いました。

SILK創立のタイミングに合わせ生まれた「京都市ソーシャルプロダクトMAP」は、社会事業者や中間支援団体へのヒアリングで推薦のあった、京都市内の「より良い社会づくりへの消費参加を可能にする商品やサービス 」をまとめものです。株式会社めいを代表に、京都の社会的企業 / 研究者6社で構成された「ソーシャルプロダクトを普及させる会」名義で発行。私も関わることができたため、SILK着任時には一定の京都市内事業者との関係性や認知のある状態からスタートすることができました。

SILK着任後、設置先からは情報を活用する様々な動きをお聞きすることができました。複数の大学で授業参考教材としての活用や学生の採用情報源としてインターンや採用が生まれるほか、新しい京都観光の情報源として外国人旅行客がMAPを手に歩かれる場面も。掲載企業同士のコラボレーションや商品の取り扱いについて百貨店や商業施設からの問い合わせやご紹介など様々です。

京都市消費生活相談センターとの連携事業では、小学生向けエシカル消費イベント「素材から学ぶくらしの学校」が開催されています2015年から今年で4回目。こちらもMAPから生まれた広がりになります。

ただ、SILKのイノベーション・コーディネーター就任時に戸惑ったことに、SILKは京都市の産業支援機関ではあるが、支援の仕方を固定化しない、といった考え方がありました。
通常、支援機関には支援メニューが存在し、助成金や相談サポートなどの選択肢があるものです。
後にわかったことですが、産業支援機関に相談したある事業者からは、新商品開発や効率性以外での相談ができる場所がないといった声を伺うケースがありました。

また支援メニューを決めることで、それを目的化してしまうといった恐れもあったように思います。

SILKの産業支援の考え方は京都市基本構想を前提に、ソーシャル・イノベーションや、そのような事業者のクラスター化がなされていくことを基にしています。その目的を達成するために、我々だけが支援するだけでなく、支援者や支援団体もキュレーションし、それがなされる状況を形成するのが望ましいという共通理解があります。

例えば「これからの1000年を紡ぐ企業認定」の認定交付式での後半には毎年、「認定企業の叶えたい未来」というテーマでの企業毎のテーブルダイアログがあり、多様な支援機関や事業者がテーブルを回り、認定企業とのゆるやかな関係性やアイデア形成の場になっています。

後に、京都中央信用金庫様からは、BtoCからBtoBへの機会提供として、京都で一番大きなビジネスフェア「中信ビジネスフェア」での出店枠のご提案などが生まれています。

私も、個別に事業者と接見時に相談内容をそのまま対応するのではなく、まず事業者が「叶えたい未来」が何であるのか。その手段としての商品やサービスの位置付けや、社会へのコミニケーション方法を確認し、事業者と一緒に、そもそもの視点へと俯瞰するような時間をもつようになりました。SILKのパートナーや連携プロジェクトも、ソーシャル・イノベーションが広がる公益性のある取り組みを歓迎し、京都市内の状況をふまえた形成の協力や共同を、必要な距離で適時行うように心がけています。

事業者の個別サポートを行う支援機関というよりも、事業者の叶えたい未来に対し、各セクターが関われる問いを持っていただけたり、議論や協力のエコシステムの形成がなされる状況をつくることがコーディネーターの役割ということを今は、おもしろいと感じています。


2.プロジェクト型イノベーション・コーディネーターにおけるイノベーションキュレーター像とは?

近年プロジェクトには様々な形状があるように思います。主に企業セクターでのプロジェクトは「目的を達成するための期限のある計画」として、プロジェクトマネージャーを中心に社内で組織構成され、建築やプロダクト、サービスなどの領域で使われてきた言葉のように思います。しかし近年では、企業や地域で、小さく実験的なものや、組織外の人たちも加わったオープンイノベーションでのプロジェクトが多く見受けられるようになりました。

このようなプロジェクトにおけるイノベーションキュレーターの視点は、プロジェクトリーダー / マネージャーだけに必要なものではありません。多様なセクターが関わり形成されていくプロジェクトには、支える人、現地で外との関係性を育み続ける人、外との関係性に翻訳を行う人。それに必要な環境を作る人、生まれた価値を肯定する人等々、様々な役割が存在します。従来のリーダーだけではなく、多様な主体がキュレーターの視点や思考をもちながらそれぞれ活躍できる状況が望ましいように思います。

また、プロジェクトの伴走支援を生業とするプレイヤーも増えていくように思いますが、画一的な解決手段やアプローチだけではうまくいかないこともあり、プロジェクトの形成の段階によって、得意な支援だけでなく、他の人的リソースの選択など、支援方法も変容を前提にしなければなりません。支援者のエコシステムも時間軸で変容していきます。

将来、プロジェクトが定着し、仕組みや習慣、文化になっていくことをふまえてプロジェクト形成をとらえると、その時に望ましい選択肢が広がるようにも思います。

つまり、プロジェクト型イノベーションキュレーターは、そのプロジェクトの「叶えたい未来」を叶えることを目的にした、プロジェクトの豊かな生態系(エコしシステム)を歓迎し寄与する人ではないかと考えています。


3.プロジェクト型イノベーション・コーディネーターでキュレーションが必要とされるポイントとは?

企業や地域ではイノベーションを生み出すための様々な事業やプロジェクトが展開されています。しかしながら、従来の組織内だけで極秘に開発を行うことは、社会的課題が山積するなか、1社だけでインパクトのある解決方法を導くことは困難ではないでしょうか。

また、思考の入り口で収益性だけを前提にとらえすぎると、既存の事業の延長線上のアイデアを超えることは難しいのではないでしょうか。

そのために、オープンイノベーションでのプロジェクトを形成する選択肢があります。利益や効率・従業員の生活を守るということが大切なことは前提としながら、そこを一旦置いておいて、その産業や地域にとっての社会的な役割について俯瞰して考察を行う。自社の哲学から叶えたい未来は何なのかを先に考え、自社や外の資源や声、関係性を活かしたアイデア形成を行い、小さなプロジェクトを実験してみる。そうした結果、新たな収益事業の芽が生まれることもあります。


SILKのパートナーでもある株式会社ヒューンマンフォーラム(京都本社)は、ブランド「spinz」で若者の古着文化を牽引してきたアパレル企業ですが、サスティナブルを前提にした飲食、服飾雑貨、ライフスタイル商材を扱うmumokutekiというブランド事業も展開されています。スタートは10年前の京北の田舎での米作りからでした。そして2016年「いきるをつくる」というコンセプトにmumokutekiをメインに本社ビル1Fから3Fををリニューアル。オープンイノベーションを前提にすることで、外部と対話が生まれ3F空きスペース運用の展開や社員スタッフから事業アイデアの機会創出に。カフェの仕入れでは、関連会社の農業生産法人だけでなく36の農家との直仕入れが展開。新しい顧客層、売上への波及効果が生まれています。

しかし、企業の中では収益化が見えないことに実行判断することは難しく、承認する側が理解できる資料や状況は必要です。またプレイヤーも自社だけの利益を全面にした伝え方では、外部の協力者やそのプロジェクトの生態系は豊かにはなりません。行政や自治体とも関係する場合は、そのセクターが理解や踏み出すことができる意味や価値の伝え方を変える多様な言語も必要になります。そのために、まずは小さく実験を行い、実施後、定数的だけではなく定性的な結果や意味に価値をおいて、それを見える状況にすることも大切なように思います。

mumokutekiでは「生きるをつくるレポート vol.1」と題してアニュアルレポートを作成し、リニューアル1周年イベントに招待したステークホルダー150名に配布を実施。個々で進めた取り組みが社内外で面として認識され、さらなる関わりや展開が生まれています。関連する農業生産法人のある京都市京北町には5名3組の移住が生まれているという状況も、このレポートから周知がなされました。


4.これからキュレーターを目指す方へのメッセージ

プロジェクトに名前をつければそのプロジェクトはスタートします。人格を持ち始めるような感覚になります。大きなスタートよりも小さな実験でも良いのではないでしょうか。プロジェクトは起業家やリーダーだけがいれば良いのではなく、関わるメンバーや多様なセクターの協力者の中にもキュレーションの考え方をもつ人材がいることが望ましいように思います。 なぜなら、プロジェクトを実行する人だけでなく、現場で動いてくれるメンバーにもプロジェクトの支援の生態系(エコシステム)は形成されていきます。視点や問いを多くの方と共有するとまた新たな発見があるように思います。
組織の外の方々へは、難しい設定よりも、共感できるモノとして伝わったり、純粋におもしろそうといった衝動的な感覚を感じとれることも大切です。そのうえで、その個人が所属するセクターでも関われる位置の設計を行うことにも、キュレーションの力が必要なように思います。


SILKの2年間の活動のレポート「SILK JORNAL
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